大岩3区暗誦の会テキスト


<本文>
   サーカス  中原中也

幾時代かがありまして

  茶色い戦争ありました


幾時代かがありまして

  冬は疾風吹きました


幾時代かがありまして

  今夜此処での殷盛り

  今夜此処での一殷盛り


サーカス小屋は高い梁

  そこに一つのブランコだ

  見えるともないブランコだ


頭倒さかさに手を垂れて

  汚れ木綿の屋根のもと

  ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん


それの近くの白い灯が

  安直いリボンと息を吐き

  観客様はみな鰯(いわし)


咽喉が鳴ります牡蠣殻と

  ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん


野外は真ッ闇 闇の闇

  夜は劫々と更けまする


落下傘奴のノスタルヂアと

  ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん 


<読み方>
サーカス なかはらちゅうや

いくじだいかがありまして

ちゃいろいせんそうありました

いくじだいかがありまして

ふゆはしっぷうふきました

いくじだいかがありまして

こんやここでのひとさかり

こんやここでのひとさかり

サーカスごやはたかいはり

  そこにひとつのブランコだ

  みえるともないブランコだ

あたまさかさにてをたれて

  よごれもめんのやねのもと

  ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

それのちかくしろいひが

  やすいリボンといき

  かんきゃくさまはみないわし

のんどりますかきがらと

  ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

やがいはまっくら くらのくら

  よるはこうこうとふけまする

らっかがさめのノスタルヂアと

  ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん 


(288字)