大岩3区 暗誦の会テキスト

学問のすゝめ」  福沢諭吉

<本文>

 「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」と言えり。されば天より人を生ずるには、
万人は万人みな同じ位にして、生まれながら貴賤上下の差別なく、万物の霊たる身と心との
働きをもって天地の間にあるよろずの物を資り、もって衣食住の用を達し、自由自在、
互いに人の妨げをなさずしておのおの安楽にこの世を渡らしめ給うの趣意なり。
されども今、広くこの人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、貧しきもあり、
富めるもあり、貴人もあり、下人もありて、その有様雲と泥との相違あるに似たるはなんぞや。
その次第はなはだ明らかなり。『実語教』に、「人学ばざれば智なし、智なき者は愚人なり」とあり。
されば賢人と愚人との別は学ぶと学ばざるとによりてできるものなり。



<読み方>
 「てんはひとのうえにひとをつくらず、ひとのしたにひとをつくらず」といえり。さればてんよりひとをしょうずるには、
ばんにんはばんにんみなおなじくらい、うまれながらきせんじょうげのさべつなく、ばんぶつのれいたるみとこころとの
はたらきをもっててんちのあいだにあるよろずのものをとり、もっていしょくじゅうのようをたっし、じゆうじざい、
たがいにひとのさまたげをなさずして、おのおのあんらくにこのよをわたらしめたもうのしゅいなり。
されどもいま、ひろくこのにんげんせかいをみわたすに、かしこきひとあり、おろかなるひとあり、まずしきもあり、
とめるもあり、きじんもあり、げにんもありて、そのありさまくもとどろとのそういあるににたるはなんぞや。
そのしだいはなはだあきらかなり。『じつごきょう』に、「ひとまなばざればちなし、ちなきものはぐじんなり」とあり。
さればけんじんとぐじんとのべつはまなぶとまなばざるとによりてできるものなり。
(402字)